「CS(customer satisfaction)」、「CRM(Customer Relationship Management)」というキーワードが盛んに聞かれた10年前に比べると、些かトーンダウンしてきていますが、もう一度その意義について解説していきたいと思います。それはCRMの意味を取り違えているために、それにより顧客離れを引き起こしている企業も非常に多いと思われるためです。また、この課題は私自身のライフワークの一つでもありますので、ここでまとめておきたいとも考えております。ただ気まぐれなので不定期になることは、お許し下さい。
当社が基幹システムの開発を受託したあるお客様より、顧客情報システムを再構築したいとの相談を受けております。その企業では、POSシステムから日次で売上データを集信していますので、日次処理された顧客の購買履歴情報を店舗にフィードバックし、次回来店時に買い替えの促進のため店頭アプローチに利用したいということでした。よくある話ですし、CRMのテキストに出てくる当り前の話です。
私は5年前、ある企業で情報システム部門に籍をおいていたときに、当時主流であったFSP(Frequent Shoppers Program)をやりかけたことがあります。FSPとは何か、もう一度振り返ってみます。
スタンプカードを使用している店舗は多いですよね。このスタンプカードというのは、システムとは切り離された特典カードです。従って、このカードを使用して顧客の購買履歴などを得てはいません。一方、磁気ストライプ付きカード、リライトカード、最近ではIC搭載カードといったカードは、カード自体に番号を持ち、後方側のシステムで会員番号という形で背番号を持たせているわけです。
これらのしくみを利用して、購買データを管理し、来店頻度、購買金額などを分析していくと、上位20%の顧客はお店の80%の売上に貢献していると言われています。それを基に顧客を来店頻度、購買金額などで選別し、セグメント別にインセンティブなどを変えることで、優先顧客層を維持、拡大していくわけです。5年前はFSPが大流行で、小売業は皆その方向を見ている時代でした。
その頃、私もある企業でFSPを行ってみました。CRMのシステムはありませんでしたが、顧客実績データが明細レベルでありましたので、Excelでも分析は十分に行えました。残念ながら2:8にはなりませんでしたが、最も利益率の高い商品群を購入してくれる客はごく一部に固定されており、おそらくその商品群を購入しない顧客に、その商品群をお勧めしても非常に効率が悪いことは明白でした。
そこで、その企業では、利益貢献度の高い顧客を維持、拡大させるためにクレジット会員管理システムで商品群単位にポイント付与率を変える方法を取りました。利益貢献度の高い商品群は通常の売上ポイントの3倍というように、ロイヤルティーの高い顧客を維持、拡大するという方法です。それが月々のキャッシュバックという形で返ってきますので、企業にとって最も大切な顧客は、その特典を実感していただけるようになっていました。また、期間を指定した上で、キャンペーン商品を設定し、キャンペーン商品のポイント付与率を高くし、キャンペーンの販促にも利用できるしくみになっていました。
一見すると、よくできたシステムのように見えます。しかし、この企業の顧客の90%の顧客は、お勧めしても利益率の高い商品群を購入していただけない顧客でした。キャッシュバックの原資には限界があります。その企業では、原資を増やすことはしませんでしたので、10%の優良顧客のために90%の顧客にとっては魅力のないしくみになっていきました。そうなると母集団が小さくなっていきます。
FSPは概念的にはわかりやすく、理屈さえわかってしまえばExcelベースでも実現することはできます。しかし、FSPの結果として打つべく戦略を間違えると、ロイヤルティーの高い顧客の維持、拡大のために、全体の来店顧客の減少を招きかねないというリスクを負っていることは否めません。FSPを利用すれば一般の顧客が企業が大切にしたい優良顧客にランクアップしていくというのは大方は幻想なのだということに気付かなければいけなかったのです。
一方、ライバル店では全く会員管理を行わずに業績を伸ばしているところがありました。これも、もう一つの解なのかもしれない-私はその時に感じました。もう一つの解については次回以降で解説していきます。
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