銀座高級クラブの「永久指名」とは…
銀座のクラブの歩合制ホステスの「永久指名」とは、こんな制度です。
売上の16%をお店に献上する。
残りの84%をお店のオーナーとホステスで折半する。
新規の客は最初に付いたホステスに「永久指名」権がつく。
ホステス本人が付かなくても(休んでも)、指名による権利は保障される。
ということは、そのお店にいる限り、その権利を行使できるわけで、他のホステスは、その客にいかに気に入られようが、他に担当するホステスがいる限り、単なるヘルプにすぎないわけです。そして、そのヘルプに回っていたホステスは、他のお店に移って、そのお客さんを自分の客として永久指名扱いとする…そんなことを繰り返しているのが、銀座なんですね。
…ということがわかったのが、この本です(私が高級クラブのしくみなど知ってるわけないでしょ?)。
『フェイク』 (角川文庫)
楡 周平 (著)
価格: ¥ 700
三流大学を卒業し、銀座の高級クラブの正社員(ボーイ)として働き始めた岩崎陽一は、手取り15万円の惨めな生活を送っています。その高級クラブにママとして移ってきた上条摩耶は、上に書いたような永久指名という制度を駆使して、銀座でもトップクラスのホステスに上り詰めた女で、陽一と年齢はそう変わらない。その摩耶から依頼され、陽一はクラブのワインボトルのラベル貼り替え(ボトルを安物のワインに摩り替える)などの犯罪に手を染めることになるわけですが、面白いのは、摩耶自身は自分の客から直接お金をもらうことはせず、客のビジネスに手を貸すことで、客がクラブで使う金額を増やし、その42%の権利を最大限行使するというしくみ。
摩耶は知恵は出すが、自ら手を下すことは一切せず、悪事を働いて得る報酬には決して見向きもせず、店の売上から搾り出すという手法を一貫して取っているわけで、こんなビジネス手法は銀座のクラブ以外でもありそうな気もしますね。そういう気がするだけで、そういう巧妙なやり口が、具体的にはすぐに浮かんでこないというのは寂しいのですが、それだけ健全ということにしておいて下さい(^_^;)
本書の中で描かれる小悪党犯罪は、上のラベルの貼り替えという単純なものから、大手製薬会社を脅迫するが、現金の授受は直接行わず、競輪への賭け金として絶対に勝てない車券に多額の資金を投入させ、倍率を釣り上げた上で、配当として正当に入手したり、株のカラ売りまで発展していきます。これら小悪党の犯罪に、純粋に金がほしいと動機だけではなく、復讐という要素を織り交ぜることで、してやったりという爽快感が生まれてきます。
そして、そうした方法で入手した金(数千万)に虚無感を感じ、共犯の友人との打ち上げで入った居酒屋の時給数百円の女の子が働く様を見て、眩しく感じる。それがFakeなんですね。最後にタイトルの意味がわかるわけなんですが、それをFakeと感じる陽一は、所詮、小悪党の域は越えられないのです。それに対する共感があって初めて、成就したときの達成感を味わうことが許されるのでしょう。この本を面白いという人は、せいぜい小悪党止まり。私もそうです(小悪党にもなれないけど)。
悪いことは言いません。銀座の裏社会なんか覗き見しちゃいけない。小悪党犯罪小説が面白くなくなりますよ。
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